体育館にこもった熱気と静寂を、肺一杯に吸い込む。 冬の太陽が差し込む中で、張り詰めた神経を研ぎ澄ます。 慣れ親しんだ床の感触が、足の裏から直に伝わる。 この瞬間が、俺は好きだった。 少しの違和感――右足の傷が疼くことを除いては。 Twinkle and twinkle ―この手に 光を― 5 「日番谷」 休憩時間、監督の朽木白哉に呼び止められた。 挨拶もそこそこに、監督は唐突に言った。 「右足を痛めたのか」 図星だった。言葉が出ない。 今日の練習が始まってからもずっと、誰にも悟られないように気を張ってきた。 未だ残る痛みを隠そうと、右足を庇うことしか考えていなかったのか。 不自然な体捌きは判断を鈍らせ、焦りだけを招いてしまったのか。 練習中、部員には気付かれなかったが、しかし―――。 俺の沈黙を『肯定』と判断したのだろう、監督はふっと溜息をついた。 「踏み込みに力が入らなくて、どうする」 「・・・すみません」 「今日は切り上げて、帰れ」 「いえ、大丈夫です!」 頭を振るが、この人――朽木白哉には一切の嘘は通用しない。 何もかも見透かされるような目で、俺を射る。 「試合前だ、無理はするな」 「・・・・はい」 監督の言うことは筋が通っている。 悔しいが、俺は言われるまま引き下がった。 無様だった。 一礼をして体育館を出る。 小川がこっちを見ている気がした。 いや、全員分の視線が背中に突き刺さってきた。 それもそうだ、地区大会前の大事な時に。 考えると、痛みが再び右足を包んだ。 とりあえず傷口を洗おうと、体育館裏の水飲み場へ向かった。 来てるかな。 剣道部だって言ってた。 体育館の中に入る勇気が無くて、出入り口の辺りをうろうろしていた。 バスケ部かな、ユニフォームを着た女子と目が合った。 どぎまぎして、慌てて目を逸らす。 そうだよね、ただ此処にいても不自然に見えるよね。 やっぱり、帰ろうかな。 でも折角ここまで来たわけだし、あっさり帰るのも名残惜しい。 そうだ、体育館の周りを一周して帰ろう。 もし――もし、日番谷君が練習している姿が見えたら、それでいいじゃない。 元気だったら、それでいいじゃない。 体育館の裏側は、滅多なことでは来ない場所。 でもこの辺、春になると綺麗な花が咲くんだよね。 ――水音がする。誰かいるのかな。 「・・・・・ってぇ」 この痛みだと、完治するまでにはあと数日かかると思った。 流れる水が容赦無く傷口に入るせいで、感覚が麻痺しそうだった。 昨日の応急処置が無ければ、もっと酷くなっていたんだろうが。 そういえばアイツ――雛森だっけ。いやに手際が良かったな。 年明けに会えたら、礼でも言っとくか。 よし、そろそろ行く――― その時の俺の顔は、多分人生で一番間抜けな顔をしていたと思う。 今の今まで考えていた奴が、何の前触れも無く目の前に現れたからだ。 「お前・・・・」 「あの、昨日は、本当に」 何時来たんだ、コイツ。何だよこれ、掌が熱くなる。 うそ、本当に会えるなんて思わなかった。ドキドキしてる。 会えたら言おうと思っていた事が沢山あるのに、何故だかちっとも言葉が出てこなかった。 ―――to the next story (2006/03/04)