刹那、頬に鋭い痛みが走った。 残った感触が、人のぬくもりを思い出させた。 俺自身が冷え切っていたせいか。それとも―――  Twinkle and twinkle  ―この手に 光を―  2 そいつはいつも、俺の後を追ってきた。何時も、何時でも。 そのせいか、周囲の奴らは勝手な想像を巡らせていたようだった。 二人でいると嫌でも目立つ。 ましてや、自分のそれよりも、他人の噂をするほうがずっと楽しい。 恋愛なんてそんなものだと思う。 俺にとって、あいつは剣道部のマネージャー。それ以上でも、以下でもない。 あいつが俺をどう思っていたのか、叩かれた今となっては薄々感じるが 俺には、あいつを構っている余裕は無いに等しかった。 『小川みちる』という人間に対する、興味そのものが無かったのかもしれない。 恋愛以前の問題だ。 「小川」 はい、と素っ頓狂な返事が背後から聞こえる。 今日も今日とて、追ってくる。 俺が何も言わないせいなのか、拒絶の意思を示さないせいなのか。 「もう、俺に構うな」 何で、と。震える声が、良心をちくりと刺激する。 剣道部の部員とマネージャー。俺達はそれだけだ。 「どうして今、そんなこと言うの」 「他の奴のことも考えてやれ。部員は俺だけじゃない」 「だって、私――日番谷君のことが、ね、」 小川は。そう、こいつは俺に何を見ているのだろう。 只の高校生の俺の、一体何を。 「小川は、俺の何を知ってるんだ」 返事代わりの、頬の痛み。後悔は無かった。 橋の上から眺めるイルミネーションは、酷く綺麗だった。 瞬きをする度に、光が目に滲んでは、ぼやける。 多分――泣いていたのだろう、俺の頬を叩いてすぐ、踵を返したあいつは 向こう側から歩いてきた奴にぶつかり、それでも猛然と走って、俺の前から去った。 これで良かったと自分に言い聞かせる。 部活でもこれまで通り接すればいいだけだ。 幻想の俺は消滅させるべきだ。例えそれが、どんなに酷い方法であるかにしても。 「きゃ・・・・・・あっ!」 突然悲鳴にも似た声が上がり、意識を戻す。 さっき小川がぶつかった相手が、よろけた拍子にバランスを崩しているのが見て取れた。 ――って、おい。 ここは橋の上。しかも欄干の側ときている。あのままでは、落ちる。 そいつの背が欄干に掛かったのが先か、俺が腕を掴んだのが先か。 「ふ・・・・わぁっ」 間に合った。勢いのままそいつを引き寄せると、再び盛大にバランスを崩して 今度は俺の方に倒れこんできた。背中に衝撃が走る。 「――・・・・ってぇ」 「んん・・・・あっ!!」 ごめんなさい、ごめんなさい、と何度も謝られ、今度は逆に助け起こされた。 「大丈夫か」 「はい。―――無い!」 空いている方の手を頭に乗せたかと思うと、そいつはもの凄い勢いで欄干から身を乗り出した。 何事かと、つられて湖面を覗く。 「あぁ・・・・どうしよう・・・・」 池にぼんやりと浮かぶ物体が、暗がりにも見てとれた。 ―――to the next story (2006/01/03)