元々成績があまり芳しくない僕は、案の定冬休みの課外授業に出席することになった。 でもこの数日間は意外に楽しめたので、僕としては中々の収穫だったと思う。 勿論、授業が面白かったわけではない。 「人間観察」―――これが結構面白かったりする。 毎日同じ席から眺めていると、数日間でその人物の癖や特徴が分かってくる。 几帳面な人間、そうでない人間。中には、挙動不審な奴も。 それは、隣の席に座っていた男子だった。 授業中、僕の方を見るんだ。何度も見られると、さすがに僕も・・・・ちょっとね。 それで注意して「観察」していたら、僕の二つ左隣に座っている女子を見ていることが分かった。 奇妙な安堵感に加え、別の感情も沸いた。 このままこの男子の「観察」を続行しよう、と。 それは、ささやかな好奇心。 それが、僕らの運命を変えていく。  Twinkle and twinkle  ―この手に 光を―  3 課外授業が終了したその日も、その人物の行動は相変わらずだった。 あの女子の後ろを、一定間隔で付いて歩いている。 お互い顔見知りならともかく、付けられている女子はこの男子を知っているのだろうか。 答えは多分、否だ。 傍から見れば、ストーカーと勘違いされても十分おかしくはない。 その行動は昇降口まで変わる事はなかった。 なんとなく、彼女の身を案じた僕は思い切って声を掛けた。 どっちに? こういう場合、女子の方に声を掛けるべきだ。 男子の方に声を掛けることは、僕のスタンスに反するから。 彼女と他愛も無い話をする振りをしながら、もう一方の出方を窺う。 暗闇を突き抜けてくる、鋭い視線を背中に感じる。 「そういえば数学の野島先生、結婚するんだって」 「えっ、さっきの先生でしょ?本当に?」 このまま彼女の気を引き付けて、人通りの多い場所まで誘導することが、僕の役割。 自然に、ごく自然に行動に移すことは、僕にとっては簡単なことだった。 「僕達、付き合ってるみたいだよね」 さっきのことを思い出したらおかしくなって、急に彼女をからかいたくなった。 当然、ムッとした表情をされたけど。 「冗談、ごめん」 「あ、ううん、私も・・・ごめん」 ほらやっぱり。君は自分の魅力に気が付いていない。 昇降口の出来事を話したら、どんな顔をするだろう。 驚くだろうか、それとも気味悪く思うだろうか。 「待ち合わせている人は?」 「うーん・・・・あ、来たみたい」 手を振っている姿が、池を挟んだこの位置からも確認できた。 「同じ歳・・・」 「じゃないよ」 僕はきっぱりと否定した。隠す理由も無い。 しかし彼女はそれ以上、何も訊いてこなかった。 「訊かないんだね、理由とか」 「好きなら、・・・それでいいと思うよ」 「――そうだね」 大概の女子なら色々訊いてくるだろうと思って、それなりの覚悟はしていた。 頭の良い彼女は、少ないやりとりで察してくれたらしい。 目の前の自分を、ありのままに受け入れてくれる存在がいる。 それだけで無性に嬉しかった。 僕は雛森さんに、自分が身に着けていた帽子を被せた。 感謝を伝えたかったから。ただ、無性に。 「それ、あげる」 「ふわっ・・・でも、大事な物じゃないの?」 「大丈夫。今日はイヴだし、プレゼント」 中古で悪いけど、と言ったら雛森さんは少し笑った。 良かった。笑ってくれた。 「・・・・ありがとう。大事にします」 「うん」 昇降口まで彼女を付けていた彼の目的は、一体何だったのか。 今日という日とシチュエーションを考えれば、想像に難くないけど。 邪魔してごめんね、吉良君。 もし君が、僕よりも少し年上だったら。 僕は多分、君に惹かれていただろう。 それは、ささやかな好奇心。 それが、僕らの運命をまた少し、変えていく。 ―――to the next story (2006/01/14)