「おい、あれは日番谷と雛森ではないか」 「んあ?」 冬休み、委員会の用事を終えた後に寄った甘味処。 食べていたところてんから顔を上げて、俺はルキアの目線を追う。 入口のところに、伊勢さんと話している二人組が見える。 着ている制服が同じってことは、俺らと同じ高校か。 「知り合いか?」 「ああ、すまぬ。日番谷――男子の方が兄さまの門下生でな、つい」 「剣道場のか・・・・って、もう一人は誰だよ、面識無いんだろ。あんまジロジロ見んなよ」 ルキアは興味津々といった様子で、未だに入口の三人を見ている。 駄目だ、全然聞いてない。 Twinkle and twinkle ―この手に 光を― 8 「食べたら帰るか。長居すんのも悪いだろ」 「一護、二人がこっちに来るぞ。隠れろ!」 「おい、いてっ!」 頭を無理矢理テーブルに押し付けられ、俺は不覚にも『伏せ』の体勢を取らされた。 有無を言わせぬ物言い。 状況を把握できないまま、俺はなし崩しでルキアの言う通りにした。 ルキアは長椅子の背もたれを壁代わりに、頭を少しだけ出して様子を伺っている。 ―――はっきり言おう。後ろから見ていると、間抜けにしか見えない。 「・・・・どうして俺らがこそこそしてんだよ」 「探偵のようで楽しいな」 「・・・バカか、お前」 ルキアはすっかりその気らしいが、俺は人をあれこれ詮索するのが苦手だ。 こいつがどういう育ち方をしてきたのか、皆目見当が付かない。 いや、想像することすら遠慮したいが。 言われてよく見れば、女子の方は見覚えがあった。 確か・・・・ヒナモリ、だっけ。 啓吾から聞いたことがある。そうだ、啓吾が―――。 「ルキア、あの女子の方」 「雛森がどうかしたのか」 「いや、啓吾がな・・・前に少し話してたから」 夏休み前、どこから聞きつけたのか啓吾が騒いでいた。 『石田と雛森さんが付き合ってる』と。 啓吾はこういう類の情報にはやたら詳しく、四六時中わめいているのが常だ。 いつものことだと思い、俺もその時は聞き流していた。 『メガネミシンと大和撫子が何故に!どうして!』と絶叫していた。 何でも雛森と同じクラスの奴に確かめたら、噂はあっさり否定されたらしいが。 あいつも夏休み前で、気分がハイになっていたんだろう。とにかく憐れだった。 誰が誰と付き合おうが、俺にとっては別にどうでもいいことだ。 でも言われてみれば、あの話は確かに意外だった。 話題に上った石田は、同じクラスのガリ勉野郎。 恋愛沙汰の話題に登場する確率は、失礼ながらまず低いと言っていいだろう。 あまり話したことのない俺ですら、そう思ってしまうぐらいだ。 そんな奴が何故、同じクラスでもない女子と噂になったのか。 二人の接点からして謎だ。一緒にいるところでも見られたのだろうか。 「見かけによらず情報通だな、一護」 「・・・ああ?」 見直したぞ、と笑顔を向けるルキア。 違う違う、俺は断じて違う。今のは全部啓吾の受け売りだ。 大体だな、憶測だけで状況を判断するのは良くない。勘違いを招くだけだ。 「石田と雛森の話なら、私も聞いたことがある。でも・・・どうだかな」 「なんだよ」 「もういい、止めだ」 そう言うとルキアは、長椅子に座り直した。 おい、探偵ごっこはおしまいか。自分で言い出したくせに。 いい加減『伏せ』の体勢も疲れてきたので、俺もルキアに従う。 全く何を考えているんだか、こいつは。 ルキアは暫くの間、無言で白玉をつついていたが、ぽそりと呟いた。 「・・・・いいな」 「何が」 質問には答えず、ルキアはまた白玉をつつき始めた。 食う気無いのか、こいつ。 「一護の席からだと見えるだろう、雛森が」 「え、ああ」 俺の位置からは、何やら笑ってる雛森が見える。 日番谷の方は背を向けているので、表情は見えない。 しかしおそらくは、同じような顔だろう。 ―――楽しそうだ。 あの二人を知らない者でも、同じように思うだろう。 「とんだ出まかせだな。ったく、啓吾の奴・・・」 「そうだな」 さっきルキアが呟いた言葉の意味が、俺には何となく理解できた。 何と言うか、憧れの対象なのかもしれない。 それが雛森なのか、あの二人の関係なのかは分からない。 もしかしたら、両方かもしれない。 あの二人を見て俺も、ルキアと同じように思った。 それだけの理由だけど、多分そんな感じだろう。 「なあ」 「―――なんだ」 「今思ったんだけど、石田と雛森って・・・・似てないか?」 「あの二人が?どこがだ。何を根拠にそう思う」 「いや、俺の気のせいだな。忘れてくれ」 「『憶測だけで状況を判断するな』といつも私に言うくせに!」 「なっ、だから違うって―――」 ―――to the next story (2006/09/18)