その人は突然やってきた。 突然やってきて、突然住み込みで働き出して、突然店を任された。 そして私が、突然その店の手伝いをすることになった。 去年の6月のことだった。  Twinkle and twinkle  ―この手に 光を―  7 「七緒ちゃん、白玉ぜんざい上がったよ」 髪も髭も伸ばし放題の、胡散臭い外見。繊細さとは無縁の、無骨な手。 それでもこの人が生み出す和菓子は、どうしてこうも人の心を捉えるのか。 惹きつけられるもの、それは味以外の何か―――別な要素。 トレイに乗せられた和菓子を見ながら、私はいつもの自問自答を繰り返す。 私の家は、江戸時代から代々続く和菓子屋「伊勢屋」を営んでいる。 私はその家の八代目跡取り。高校を卒業したら専門学校へ進学、菓子作りを本格的に学ぶ。 学校を卒業したら、何処かのお店に弟子入りして修行を積み、ゆくゆくはこの店を継ぐ―― 何の疑問も持たず、全てが順調だった人生計画に、ある時突然邪魔が入った。 それが、この「伊勢屋分店」の店長―――京楽春水だった。 私が高三の春、店に突然現れたと思ったら、父に土下座をして願い出たのだ。 「住み込みで働かせてほしい」、と。まるでドラマのような展開だった。 しかし、和菓子職人としての腕は確かなものだった。 七代目を名乗る私の父をも唸らせた、職人としての力量。 でも、そこまでの実力を持ち合わせて何故うちの店に来たのか。 一体何を考えているのか、未だに分からない。 さしずめ私は、伊勢屋の行く末を見守る判定者か。若しくは単に、この人のお目付け役か。 「お待たせいたしました。白玉ぜんざいのお客さま―――朽木さん!」 奥にいた所為で気付かなかったが、運んだ席には同じ高校の後輩、朽木ルキアが座っていた。 「お疲れさまです、伊勢先輩」 すると、向かいには―― 「・・・こんにちは」 やっぱり。朽木ルキアとセットで来店する人物と言ったら、コイツしかいない。 黒崎一護。色素の薄い髪を持つせいか、本人の意思とは関係無く、嫌が応にも目立つ存在だ。 私はコイツの髪の色が割と好きだった。勿論、本人には絶対言わないつもりだが。 漆黒の髪を持つ者としては、少しばかり羨ましかったのだ。 しかし、髪の色が少し違うだけで、周囲からは相当叩かれたであろう。 私にはそれを推し量ることはできないし、軽々しい同情もしたくなかった。 「はい、ところてん」 「・・・すいません」 朽木さんと黒崎は、いつも二人でこの店を訪れる。 在籍する高校から近くもなく、逆にそれ程遠くもない距離に建っているせいか 同じ高校の学生は、あまり来店しない。そこが良いと、以前朽木さんが話してくれた。 高校の近くにはファミレスも点在しているが、黒崎が苦手らしい。 確かに、あの喧騒の中で食事をしても美味しくはないと思う。そこは黒崎に同感だ。 「ゆっくりしていってね」 「いつもすみません」 「いいのよ」 話すのは専ら朽木さん。 黒崎は殆ど喋らず、注文した品を黙々と食べる。 それでも、二人は楽しそうだ。―――凄く。 「ねえ、七緒ちゃん」 「何ですか」 「あの二人は、付き合ってるのかねぇ」 「・・・・ご想像にお任せしますが」 「やっぱり付き合ってるのかねぇ」 私が厨房に戻ると、決まって繰り出される会話だ。 やれ青春だの、初々しいだの。仮にも知り合いとは言え、ここでは立派なお客さまだ。 詮索しても他言無用。信用問題にも関わる。 「世間話は結構ですが、お喋りが過ぎると問題ですよ」 「いや、手厳しいね、全く」 「当然のことです」 からりと引き戸が開く音がした。お客さまだ。 まだ何か言おうとする京楽さんには構わず、私は厨房を後にする。 「いらっしゃいま・・・・冬獅郎!」 「・・・よう。来てやったぜ」 近所に住む、幼馴染みの日番谷冬獅郎。 甘い物は苦手だと、誘っても絶対に来店しなかったのに。 どういう風の吹き回しなんだろう。 「ほら、入れよ」 「う、うん・・・」 何、女の子連れ?ちょっと、今日は一体どうしたのよ。 そして、入ってきた女の子を見て、私はもっと驚くことになる。 それからの私は、京楽さんの世間話にいちいち目くじらを立てなくなった。 誰だって気になることの一つや二つ、・・・あるのね、やっぱり。 ―――to the next story (2006/05/06)