どいつもこいつも、クリスマスってだけで浮かれすぎだと思わないか。 よくもまあ、チカチカした電球や飾り付けだけで、あんなに盛り上がれるよな。 確かそんな話をしたら、阿散井に同情とも憐れみとも付かない、とかく変な顔をされた。 「生きた化石だよ、お前」 俺は天然記念物か。 休日をどう過ごそうが、他人には関係ないと思う。 それがどうだ、クリスマスの日はどうするのかと、こぞって訊いてくる女子、女子。 その日誰と、どう過ごすのかといったことだろう。話題の内容は大方察しが付く。 「クリスマスに練習試合って、普通ありえないよな」 「だよな、その日ぐらいは避けてくれたって・・・」 「しっ、コーチに聞こえるよ」 「けどさ、試合が終わってからでも時間あるよね?」 12月に入ってから、部員にも浮ついた雰囲気が漂う。 それもこれも、クリスマスの所為か。これだから年の瀬は嫌だ。 練習と言っても、試合は試合だ。半端な気持ちで臨んでは、相手側にも失礼だ。 着替えもそこそこに盛り上がる部員には構わず、鞄を持って体育館を後にする。 「あの、日番谷くん・・・」 靴を履き終わったところで、女子の声に呼び止められた。 振り向くと、マネージャーの小川だった。 「どうした」 「あ、あの・・・日番谷くん、練習試合の日だけど・・・」 「試合の日?」 「うん、試合が終わったら―――時間ある?ね、どこか行かない?」 またか。 どうしてこう、クリスマスにかこつけて何かをしたがるんだ。 どいつもこいつも、言い訳にしてるだけじゃないのか。 静かな怒りと、クリスマスに対するくだらなさが一気に押し寄せてきた。 溜息を一つ吐き、鞄を肩に掛け直す。 「あのな、小川。その日は試合だろ」 「・・・・ダメ?」 「試合の後は、家に帰って休みたいんだ。それに」 ふと見ると暗がりの中、小川が怖々俺を窺う視線を感じた。 それ以上何も言ってこないので、俺は更に言いかけたが・・・やめた。 「悪い。俺は行けないから」 小川に八つ当たりしたところで、何も変わったりはしない。 俺はただ、ふざけた姿勢で試合に臨みたくないだけだ。 付き合いが悪いと言われるのは慣れている。 ただ、俺の考えを理解してくれる人がいれば・・・この気持ちも少しは和らぐのかもしれない。 ―――いるのか、そんな奴が。 他人にすがる気持ちは捨てたはずだ。それが、こんな時に嫌と言うほど思い知らされる。 この先誰に、何を求めるんだ俺は。 クリスマスを言い訳に使いたがっているのは、他でもなく俺自身だ。 だからクリスマスは嫌なんだ。  Twinkle and twinkle  ―この手に 光を―  10 「あと4日後のイベントといえば、何でしょう?」 清音ちゃん、ちょっと顔が近いよ。 自分の席に座ってたけど、思わず仰け反ってしまうぐらいに近い。 私が微妙に体勢を崩しているのに気付かない清音ちゃんは、さっきと同じ質問を繰り返した。 「ヒントは『よ っ か ご』です」 「えっと、あ、・・・・冬休み?」 答えを言わざるを得ない雰囲気だったので、思い付くまま言ってみる。 だってもうすぐ冬休みだよね、うん、間違ってない。 すると問題を出した本人が、逆に訊き返してきた。 「は?冬休みって明後日からでしょ?変わったの?」 「ううん、私もよく分からないだけ・・・」 漫画だとアチャー、なんて効果音が付きそうなほど驚いた顔をした清音ちゃんは そんなことも知らないで生きてきたの、と言わんばかりの勢いで詰め寄った。 「クリスマスだよ、桃。分かってる?」 「あ、クリスマスか。そうか、四日後だね」 質問の答えはクリスマスだったのね。なるほど。 え、まだ何かあるの? 「あのね、今更だけど―――クリスマスの日、桃はどうするの」 「クリスマスの日?」 そういえば最近、似たようなことをクラスの友達や、男子にも訊かれたけど。 「えっ、その男子って誰・・・・」 「小島君とか」 コジマくん!?と声を出し、教室に残っている男子を探す清音ちゃん。 ちょっと、声大きいって・・・。 「何?」 『灯台下暗し』じゃないけど、小島君がすぐ傍の席に座っていたので、 ひえっと飛びのいた清音ちゃんだけど、すぐに態勢を立て直した。 「ああ、あの、あなたが小島君?」 「はい。小島水色です。よろしく、えーと・・・」 「あ、私、虎徹清音です。隣のクラスの」 「コテツさん?」 さすが小島君、女子と打ち解けるのも早いな。 「失礼ですが、桃とクリスマスを一緒に・・・?」 「ううん、違うよ」 小島君がにっこり笑うので、つられて私も笑ってしまう。 「イブの日は課外だよね、雛森さん」 「は・・・?何それ」 私は鞄の中から予定表を出して、清音ちゃんに差し出す。 課外とは言わば、希望者を対象とした冬休み中の補講だ。 家にいても手持ち無沙汰なだけなので、参加しようと私は最初から決めていた。 「課外・・・・そんな・・・」 「僕も出ることにしたよ、雛森さん」 「本当?良かった。同じクラスの人が少ないから、寂しかったの」 「よろしくね」 「うん、こちらこそ」 予定表を見ながら何かを呟く清音ちゃんは放っておくとして。 小島君こそ、クリスマスの日をどう過ごすつもりなんだろう。 私と同じように、課外には出るんだよね? 「僕は課外の後、知り合いの人の家に呼ばれているから」 「それって・・・女子?」 すかさず清音ちゃんが割り込む。 すると小島君は照れることなく、肯定した。 「うっわあ・・・見かけによらずすごいね、小島君って」 「そんなことないよ。たまたま呼ばれただけで」 清音ちゃんが微妙に失礼なことを言ってるけど、小島君は全然気にしてない。 私も初めて聞いた話だったので、内心すごく驚いた。 でもクリスマスって、そんなに楽しいものなのかな。 私達、普段からキリスト教の敬虔な信者でもないのに、その日だけ大騒ぎして。 世の中全てがクリスマスに便乗しているみたい。 そう、こっちが気後れするぐらいに。 私の胸の内を、二人は黙って聴いてくれた。 ずっと思っていたことだった。でも、言ってから後悔した。 ごめんね、気にしないで。水を差すようなこと言って、本当にごめん。 「―――桃、あたし全然そんな・・・あたしこそゴメン」 「でも僕は、雛森さんの考えにも一理あると思う」 「小島君・・・」 「確かに、僕らも少し浮かれすぎているところがあると思う。  いつか雛森さんが同じような考えの人に出会えたら、きっと面白いと思うよ」 出会う?私が? 「面白いって、どういうこと?」 「ああ、それはね。  同調者が同じ女子の場合だったら、相乗効果で嫌悪感が増す可能性が高いけど  それが男子の場合だったら、・・・・まあ、雛森さん次第かな」 って。 小島君は時々、何かを悟ったかのようなことを言う。 実を言うと、私もよく分からないことの方が多い。 「桃と同じような考えの男子ねー・・・。そんな人、いるの?」 「さあ・・・。私に訊かないでよ」 「いたとしても、余程の堅物だよね」 「それも雛森さんの出方によるかな。どうなるかは二人次第」 「何それ、投げやりー」 でも、少しだけ思う。 私と同じような気持ちを持つ人がいるとしたら、やっぱり会ってみたいな。 こんなに寂しい気持ちを抱えたまま、一人でいるのは心細いよ。 いるのかな、そんな人。 何ができるのか、それは私次第だけど。 出会えるのなら・・・せめてクリスマスの日だといいな。 それならきっと、今より好きになれると思うから。 ―――to the next story (2006/12/17)